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●スージー・ホッジ 著 中山ゆかり 訳●フィルムアート社(2023年9月)●25.7×18.8cm/439頁●定価3,800円(税込4,180円)
西洋美術を愛する人たちが世界を一生涯かけて巡り歩かなくてもよいように編まれた一冊。なるほどそれだけのことはある。画家のプロフィール、時代背景、誰のために描いたのか、ゆかりの絵、各部のディテールからの考察、さらに専門的な画法と構図。パレットの色まで解説してくれる絵もある。一般教養から専門知識までと、まさにかゆいところにも手が届く充実ぶり。秋の夜長にじっくり愉しみたい。(麻)
●青柳正規 監修●小学館(2023年2月)●28.4×21.8cm/279頁●定価2,700円(税込2,970円)※対象年齢:小学校中学年から大人
古今東西を問わず約360点もの世界の絵画が掲載され、表現方法や社会背景、素材や技法など、さまざまな切り口の解説は知らなかったことばかり。絵画鑑賞の際、ちょっとした知識や見方を教えてもらうと、ただ眺めるのとは違う愉しみを発見できておもしろさが倍増する気がします。実物大で細部を確認できるなど、大判の絵を堪能できるのも大型図鑑ならではの贅沢さ。美術館に行きたくなりますよ。(あ)
●クリス・ウーレンベック+ジム・ドウィンガー+フィーロ・オウウェレーン 著 古家満葉 翻訳監修 鮫島圭代 翻訳●パイ インターナショナル(2023年8月)●29.6×21.2cm/223頁●定価3,600円(税込3,960円)
原書がオランダ、ドイツ、ベルギーを巡回した展覧会の図録であると知り納得。世界のクリエーターたちを魅了する川瀬巴水はもちろん、オランダ人の個人コレクションや版元・渡邊庄三郎のコレクションを多数収録するなど、斬新な切り口で編まれています。関東大震災前までの新版画の潮流とともに、新しい時代の役者絵や美人画なども収録されており、日本美術史の知られざる顔に出会えました。(法)
●阪口珠未 著●自由国民社(2023年10月)●21×15cm/127頁●定価1,600円(税込1,760円)
漢方・薬膳研究家の著者が、養生ごはんを紹介。季節ごと、貧血など体の悩みごとのひとり鍋レシピは、薬膳といっても難しいことはなく、あずきやキクラゲなどの身近な材料で簡単に作れます。うちではひとり用の土鍋が大活躍。冷えに効くサケの酒かす鍋が気に入りました。食事時間に差のある家族にもいいかも。スイーツやお茶の紹介もあります。親しい人を労わってプレゼントにもどうぞ。(み)
●文化出版局 編●文化出版局(2024年3月)●21.7×15.4cm/173頁●定価2,000円(税込2,200円)
「料理家という肩書きを軽々と超えた」生き方。今年100歳を迎える辰巳芳子さん。記念の意味もこめて、これまでの足跡と珠玉の言葉、レシピなどがまとめられています。スープに関する活動、子どもたちのための大豆100粒運動。食といのちのつながりと大切さ、未来に伝えていくこと。その思いと行動力に深く感銘を受けます。小説家・僧侶の玄侑宗久氏、小児科医の細谷亮太氏との対談も収録。(玲)
●渡辺麻紀 著●文化出版局(2023年11月)●20×21.2cm/83頁●定価1,600円(税込1,760円)
歳を重ねても好きなものを食べるには植物由来の材料を使えばいいと、バターや牛乳を植物系のオイルやミルクに代えて旬の野菜と果物をたっぷり使った斬新なキッシュ。生地はこねずに混ぜるだけで、寝かせる時間も重石も不要。思いたったらすぐに作れて、でき上がりはサクサク、胃もたれしない美味しさ。キッシュは好きだけどカロリーが……と思っている方、ぜひ試してみてください。(万)
●お茶と暮らし研究会 編著●自由国民社(2023年7月)●18.8×13.1cm/223頁●定価1,500円(税込1,650円)
定番茶、リラックスしたいとき、香りや見た目を楽しむ、不調を整える、各地の珍しいお茶、と5つのテーマで100種のお茶を紹介。淹れ方に効能、お茶に関する豆知識と情報も豊富。麦茶が平安貴族にも飲まれていたとは驚きです。カラー写真が多くページをめくるだけでも愉しく豊かな時間に。日本茶・紅茶・中国茶・ハーブティーにタピオカミルクティー、さあどれにしましょうか?(薫)
●宇多川久美子 著●PHP研究所(2021年5月)●18.8×12.8cm/159頁●定価1,300円(税込1,430円)
自分が飲んでいる薬がどんなものか説明できますか。知らずに言われるがままに取り続けると、危険もありますよと薬剤師が丁寧に解説します。薬の効用や副作用を理解したうえで薬を頼りにし、自分の身体を整えてほしい。家族が薬に頼らなくていい身体を手に入れるための健康の秘訣。年齢によって薬との向き合い方が変わること。知らずにいたことが自分で判断できることに変わりました。(友)
●黒坂真由子 著●日経BP(2023年12月)●21×14.8cm/585頁●定価2,600円(税込2,860円)
高学歴やクリエーターの友人がいます。なぜか共通して社会性に難があり疑問に思っていました。脳には多様性があり、「普通」とされていることが当人たちには通じていないのだと合点がいき解像度が格段に上がりました。発達障害とされる特性を持つ人の気持ちを、言語化しにくい部分を逃さず聞き取る著者の誠実さが圧倒的。それぞれが持つ脳の個性を理解する手引きとして助けになります。(友)
●こど看 著●KADOKAWA(2023年11月)●18.8×12.8cm/191頁●定価1,400円(税込1,540円)
おびやかさない・叱責しない・最後まで話を聞く・意向を軽視しない・疑わずにいったん信じる・余計なひとことを言わない−−子どもの心をケアするポイントがわかりやすく紹介されています。「だから言ったでしょ」は慎むように。大人の不機嫌は子どもを無理やりいい子にさせる。機嫌よくいるために大人も心を守ることが大切だそう。常識を押し付けない工夫の数々、一つずつ実践中です。(薫)
●樋口愉美子 著●文化出版局(2023年12月)●25.7×19.1cm/103頁●定価2,000円(税込2,200円)
なんて心躍る刺繍の本でしょう。季節のお花に行事、食べ物、庭仕事にお菓子作りに楽器に文具……。12か月の図案はかわいらしく、眺めているだけで幸せな気持ちに。開いたままにできる製本で作業もしやすく、道具選びやステッチの基本も丁寧に押さえています。モチーフは小さなものから単体で使えるので、初心者にもおすすめ。私は、愛らしいさくらんぼから刺繍を始めてみました。(亜)
●小野木彩香 著●エクスナレッジ(2023年4月)●21×14.8cm/157頁●定価1,600円(税込1,760円)
お花を一輪買うなら……毎日の暮らしに少しの彩りを添える一輪飾りが、工夫次第では花束よりも強い印象を与えてくれることに驚きました。東京都三鷹市で植物商店を営む著者の飾り技を学べる第1章では、季節の花を週に一輪ずつ飾り一年を巡ります。第2章デザインメソッド、第3章花器、と頁をめくるたびナチュラルでシンプルなセンスの虜に。ミニ写真集としてもおすすめです。(な)
●ちいさな美術館の学芸員 著●産業編集センター(2024年1月)●18.8×12.5cm/215頁●定価1,600円(税込1,760円)
美術館の展示は机上の立案から始まり、図録の作成や会場の設営など準備の山を越え開催を安全に行なう。そして世界中へ作品を無事に返却しなければならない。途方もなく細やかな配慮が積みあげられている。その舞台裏を実在の学芸員が楽しく語ります。美術館好きにはたまらない話の数々。おすすめの鑑賞方法から鑑賞後の愉しみ方までも紹介。黒子役に徹する学芸員さんに感謝。(友)
●岩合光昭 著●クレヴィス(2024年2月)●20×18.2cm/79頁●定価1,300円(税込1,430円)
季節で移ろう美しい風景の中、桃農家のねこボンドを追った岩合光昭氏の写真集。軽トラに乗って農園に向かい、木の上で作業を見守り、虫を追って駆け回り、疲れ果ててお昼寝。撮影中、岩合さんとも「よく話をした」というほど人懐っこいボンドは、まわりにいる皆を笑顔にしてくれます。名前の通り、人と人をくっつけるのが得意。まっすぐな瞳を向けられたら、もう逃げられません。(a)
●ヨシタケシンスケ 著●集英社(2024年2月)●21.6×15.5cm/120頁●定価1,600円(税込1,760円)※対象年齢:小学校中学年から大人
地球に迷い込み、生活するため「おしごとそうだんセンター」にやってきた宇宙人。センターのスタッフとの会話を通し「働くこと」の意味を考え始めます。このスタッフの言葉に見え隠れするヨシタケ流仕事論が深く心に響きました。世の中のすべての仕事が大事だし、かっこいいのです。紹介されている44の仕事もヨシタケ流で奇想天外。自分に合う仕事があるか、本の中で見つけてみてください。(C)
●川原繁人 著●朝日出版社(2022年5月)●18.7×12.8cm/276頁●定価1,750円(税込1,925円)
著者は音声学者。娘たちとプリキュアごっこをしていた時、主人公らの名前にある特定の音が使われていると気づく。その理由は? 他にも「いっぴき、にぴき、さんぴき」といった子どものかわいい言い間違いや、親の赤ちゃん用語「まんま」「くっく」など、子育て中に出会った言葉の不思議を音声学で分析し次々と解明していく。家族エピソードも満載の楽しい音声学入門書。(星)
●降矢なな 作●福音館書店(2023年10月)●20×19.1cm/20頁●定価900円(税込990円)※対象年齢:赤ちゃんから幼児
秋の訪れとともに楽しみたい赤ちゃん絵本。登場するのは、木の家で暮らすかあさんりすと子どもたちです。かあさんがどんぐりを拾いに出かけるあいだ、4ひきの子りすはお留守番。落ち葉の横や木の根元、やぶの向こうと探しまわり、5つ拾ったどんぐりを背負って帰るかあさんのうれしそうな顔! 家族みんなでどんぐりにかじりつく様子は、なんとも言えないかわいらしさです。(理)
●フィリス・クラシロフスキー 文 ニノン 絵 福本友美子 訳●福音館書店(2011年3月)●21.3×19.1cm/32頁●定価1,100円(税込1,210円)※対象年齢::幼児から
昔あるところに、バラの木よりも、お針子箱よりも小さな女の子がいました。でも小さな小さな女の子は、少しずつ自分より小さなものを見つけ、自分でできることも増えていきます。小さな子どもの成長の喜びを、かわいらしく描いています。カバーの若菜色と本体のピンク色が、中の絵にも使われています。原作は1953年ですが、古さを感じさせないデザインです。(七)
●田中陵二 文・写真●福音館書店(2024年1月)●25.6×19.6cm/48頁●定価1,300円(税込1,430円)※対象年齢:小学校中学年から
地球上で発見された鉱物は約5800種類。その鉱物を入り口に元素の姿を楽しめる美しい写真絵本です。冒頭で取り上げている岩塩は、他の元素が加わると鮮やかな色になり、まるで宝石のよう。元素を取り出す実験などもおもしろくてわかりやすい。特に著者が撮影した元素の写真で作った周期表がおすすめ。文字だけの元素記号がまったく違って見えます。元素の世界を目で楽しんでください。(春)
●三井淳平 著●偕成社(2024年4月)●21×14.8cm/171頁●定価1,600円(税込1,760円)※対象年齢:小学校高学年から
日本でただひとりレゴ社から公式認定された「プロビルダー」三井淳平さんの著書。巻頭カラー8ページにわたり紹介されている錚々たる代表作の中でも、約5万個のレゴを使用し、400時間かけて制作された「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の完成度は圧巻の一言。QRコードからメイキング映像も楽しめます。三井さんのレゴへかける情熱を文章と視覚の両方から感じてみてください。(楽)
●谷川俊太郎 文 粟津潔 絵●福音館書店(2019年4月)●25.2×23.1cm/24頁●定価1,000円(税込1,100円)※対象年齢:小学校低学年から
1971年2月発行の「かがくのとも」の復刻版。このサイケデリックな色使い、シュールで壮大なイラストを現代の子どもたちはどう見るか? なーんて考えるのは大人だけで、子どもはまっすぐに内容を楽しんでくれるのかも。いろいろな「まる」が登場して、我こそ王と名乗りをあげます。果たして栄光はどの「まる」に? 力強い詩、特にラストのメッセージがとても良いです。(理)
●神沢利子 作 G・D・パヴリーシン 絵●福音館書店(2004年1月)●29×30.7cm/36頁●定価1,700円(税込1,870円)※対象年齢:小学校低学年から
シベリアの森で生まれ生きるひとりの猟師の物語。父がそうであったように、祖父がそうであったように、鹿を撃ち、食らい、子の生をつなぐ男の独白が胸を打ちます。「兄弟」と呼びかけるほどの鹿への親しみ、命を奪うことへのおそれと感謝。これほどの深く強い結びつきが、人と鹿の営みの中に確かにあったということに感動しました。大人にも手にとってほしい、読みごたえのある一冊。(理)
●神沢利子 作 堀内誠一 絵●あかね書房(1969年1月)●21.7×15.3cm/93頁●定価1,000円(税込1,100円)※対象年齢:幼児から
たまごを焼くことが大好きなふらいぱんじいさん。ある日、新しいフライパンがやってきてお役御免に。じいさんは「広い世の中に出れば、自分にもできることがあるはず」と旅に出ます。ジャングルや海でさまざまな体験をしたじいさんが最後にたどり着いた場所とは……。ドキドキの冒険物語は、じいさんの自分探しの物語でもあります。子どもだけでなく、大人にもおすすめです。(C)
●D・ムラースコヴァー 文 関沢明子 訳 出久根育 絵●理論社(2012年11月)●22×30.1cm/32頁●定価1,800円(税込1,980円)※対象年齢:小学校高学年から大人
遠くへいきたいと願うかえでの葉っぱがありました。そんな葉っぱを少年が風に乗せてくれます。いつか戻ってきて、少年に話をきかせる約束をして。春夏秋冬と広い世界を巡り少年と再会した時、葉っぱはなにを語ったか。一言で語るにはあまりに惜しい結末なのです。生命の煌めきを閉じ込めたような、出久根さんの描くチェコの風景を一緒に旅して、葉っぱの囁きに耳を澄ませてみてください。(法)
●ハンス・クリスチャン・アンデルセン 作 大畑末吉 訳 松村真依子 絵●岩波書店(2022年3月)●18.6×15.8cm/230頁●定価2,400円(税込2,640円)※対象年齢:小学校高学年から大人
故郷から町に来た絵描きの青年が孤独を感じていると、窓から見える月と再会します。懐かしい故郷の月は、夜ごとに若者を訪れ、33のお話を聞かせます。そのお話を「絵の輪郭」としてまとめた短編集です。アンデルセンが旅した世界各地を舞台に、訳者が「万華鏡のように多彩」と評したお話が凝縮されています。青年が月から話を聞くように、毎晩1話ずつ静かに読みたい愛蔵版です。(春)
●叶内拓哉 文・写真 水谷高英 イラスト●文一総合出版(2021年4月)●18.7×11.7cm/207頁●定価1,400円(税込1,540円)
野山に出かけよう!と遠出しなくても、いつも暮らしている市街地、公園といった身近な所から初めてみましょう。この鳥は? どこに? いつ? といった素朴な疑問に答えてくれる、わかりやすい分類やイラストがうれしい限り。雌雄、幼成鳥の写真やイラスト、飛ぶ姿までもあり、つい描きたくもなります。ポケットに忍ばせてお散歩で楽しむもよし、子どもの好奇心にも応えてくれます。(麻)
●鈴木まもる 著●イースト・プレス(2023年5月)●17.3×11.5cm/190頁●定価1,000円(税込1,100円)
身近な鳥の美しく神秘的な営みを知り、感嘆しきりでした。絵本作家として知られる著者は、鳥の巣研究の第一人者。メジロはクモの巣から糸を取り、ウグイスはササの葉で屋根のある球体の巣を。誰にも教わることなく、身の回りから素材を集め、一つとして同じ巣はないのだという。愛らしいエナガの、コケやガの繭の糸でつくる巣の精巧で美しいこと! フルカラーで読み応え十分です。(亜)
●六車由実 著●KADOKAWA(2023年9月)●18.8×13.2cm/323頁●定価1,700円(税込1,870円)
沼津市の自宅でデイサービスの管理者・生活相談員をする著者。介護民俗学の視点を活かした「聞き書き」を通し、集った人々が互いの歩みや思いを共有し、つながりを結ぶ場を育んできた。コロナ禍はこうした営みを中断し、介護現場を大きく翻弄した。職を辞すことも考えるほど追い詰められながらも、著者はスタッフとともに新たな道を模索する。「徘徊」という言葉の使い方や入浴介助に関する問題提起も興味深い。年を取り迷惑をかけたっていい。助けが必要になることが努力しなかった者の自己責任だと切り捨てることに異議を唱える3年半の奮闘記。(薫)
●松居竜五 著●岩波書店(2024年3月)●19.4×13.6cm/210頁●定価2,300円(税込2,530円)
著者は南方熊楠顕彰館館長。近年の調査で明らかになった事実に基づき、今までにない熊楠さんを書き表しています。幼少時は図鑑を書写し、そこから文字も学んでしまう神童。若かりし頃はやんちゃな一面も? 自分が「楽しい」と感じるものをどんどん追いかけていく姿がそこにはあります。長じて研究の対象は、植物、動物、粘菌と多岐にわたり、人生の後半には故郷の森の保護運動で知られています。一次史料はわかりやすく現代語訳され、著者の「熊楠さん」という呼び方にも親しみを覚えます。ぜひ本書を手にとって、その世界観に触れてみてください。(洋)
●ジョン・ミッチェル 著 阿部小涼 訳●岩波書店(2023年1月)●21×14.9cm/78頁●定価620円(税込682円)
英出身の調査報道ジャーナリストが基本的人権である「情報の自由」の重要性とその効力を説く。誰もが公的情報を活用できるようにすることで、国家機能がチェックされ、権力の濫用・汚職腐敗を抑止する力となり得るからである。本書では、日米地位協定に阻まれた沖縄での在日米軍による環境破壊・隠蔽工作・犯罪などを、職業、国籍に関わわらず誰でも請求できる米の情報自由法(FOIA)を使って明らかにした事例を紹介、成果を示す。一方で日本の「情報公開法」は当局の幅広い裁量を許し、報道機関側の活用も不足。強化が必要だ。(よ)
●高橋和夫 著●ワニブックス(2024年2月)●17.2×10.8cm/253頁●定価990円(税込1,089円)
問題は2023年10月のハマスの奇襲に始まったのではない、と著者は強調する。ガザではあらゆる人権が奪われた状態が続き、いつ爆発してもおかしくなかった。オスマン帝国支配下の時代から、大国の思惑に翻弄され戦場となってきたパレスチナ。そして今、水も仕事も将来への展望もなく、死の恐怖と隣り合わせの日々を強いられている。「パレスチナの人々に尊厳ある生活への道筋を示さない限り悲劇は終わらず、イスラエルにも真の平和は訪れない」という著者の言葉を重く受け止め、パレスチナ問題の歴史、そしてガザの現状をこの本からしっかり学びたい。(M)
●レイチェル・カーソン著 森田真生 著・訳 西村ツチカ 絵●筑摩書房(2024年3月)●19.4×13.4cm/182頁●定価1,800円(税込1,980円)
R・カーソンは、幼な子ロジャーと海辺の別荘で過ごした豊かな時間を元にエッセイを遺す。それは「自然の瑞々しさ、神秘さ(ワンダー)に目を見張る感受性(センス)」の尊さを伝えて、広く読まれてきました。森田氏はこれを新たに翻訳。京都東山で二人の息子との時を得て、このエッセイをさらに書き継ぎます。子どもたちは虫を探し植物を眺め、自然の複雑な世界を全身で味わう。その姿を目の当たりにして著者の思索も深まります。命を巡らせる自然の驚異(ルビ:ワンダー)に、読み手の感受性(センス)も開かれていく思いに。(水)
●暮しの手帖編集部 編●暮しの手帖社(2023年3月)●19.6×12.7cm/225頁●定価1,900円(税込2,090円)
『暮しの手帖』の本誌と別冊に寄せられた「あなたの暮らしを教えてください」という随筆集シリーズ全4冊。第2集は日々の気づきにまつわるお話。堀江敏幸さんのエッセイは手紙について。言葉だけではなくそれを送る人、受け取る人に思いを馳せる、「忘れないでおくこと」として心に残りました。他にも近所の猫やお店のこと、仕事や家事を通しての発見や、趣味や学びの中で思うことなど、小さな日常を慈しみたくなる一冊。多様な寄稿者の心を垣間見れるような楽しさが。(美)
●ペギー・オドネル・ヘフィントン 著 鹿田昌美 訳●新潮社(2023年11月)●18.8×12.8cm/259頁●定価2,000円(税込2,200円)
書名だけ見ると出産に否定的な内容かと思うが、そうではない。歴史学者の著者が、アメリカにおける出生率低下の現状について、多面的かつ丁寧に分析した、考えさせられる一冊である。仕事との両立、子育てサポートの不足、健康面ほか、産まない選択をした女性たちの事情、思いや背景が浮かび上がる。著者が取り上げる「マザリング」は、誰もが母となり、コミュニティ全体で子育てするスタイル。親になることについて、私たちはもっと自由で柔軟な捉え方をして良いのだと感じた。(き)
●白尾悠 著●河出書房新社(2022年11月)●14.9×10.5cm/387頁●定価900円(税込990円)
米国で学ぶ夢を叶えたはずの大学生ナオミは、環境に馴染めず勉強に没入する日々を送る。そんな中、マイノリティの居場所「サード・キッチン」で素晴らしい仲間たちに出会う。しかし人種、経済格差、ジェンダー……差別にはキリがない。ひとつクリアしたと思えばまた別のしがらみに気づき、自分が加害者になることも……。主人公目線でめくるめく多様性を体感できる物語はリアルそのもの。生きることは考え続けること、と自分の現実も肯定したくなる、熱い読後感があります。(法)
●大原千鶴 著●世界文化社(2023年12月)●24×18.2cm/111頁●定価2,300円(税込2,530円)
紬に半幅帯で帯揚げなし。いつも素敵な大原さんの気張らない着こなし術が満載です。うそつき袖や真田紐に凝ったり、名古屋帯を半幅帯に、アンティークボタンを帯留にする楽しい工夫。帯結びや季節ごとのコーデ、草履や雨コートのこと、割烹着のお店、暑さ・寒さ対策に自宅での大胆な洗濯法。わりと簡単に麻のきものが洗えて思いの外すっきり。これなら汗もこわくない! 着る機会が断然増えました。(空)
●吉田三世 著●ワニブックス(2022年4月)●25.7×18.3cm/111頁●定価1,600円(税込1,760円)
きものはもちろん帯芯や裏地もリメイクできる本。古きものを生地に戻す方法も写真付きで丁寧に解説、縫い方の説明もわかりやすいです。生地の耳を活かして縫い代の始末が少ないのも楽。トップス、ボトムス、コートにバッグ……どれも年齢を問わないシンプルなデザイン。帆布のようなトートバッグは帯芯だったとは思えません。こんなにステキに蘇るなら、大切な一枚もリメイクありですね。(空)
●にしうら染 著●大和書房(2024年1月)●15×10.5cm/159頁●定価740円(税込814円)
モネが大好きでモネを主人公にした作品もある著者が、「いつか自分も行ってみたい……」という夢を実現した旅コミックエッセイ。風景画に描かれたジヴェルニーなどノルマンディー地方を巡る3泊4日の旅のルートや列車の乗り方、宿泊先や街歩き、持ち物や便利情報などが実際の旅に沿って詳しく紹介されている。時にはハラハラドキドキ、著者と一緒に旅をしているような臨場感たっぷりです。(万)
●中道あん 著●主婦の友社(2024年4月)●18.8×12.8cm/215頁●定価1,300円(税込1,430円)
60歳の記念にパリ10日間。わくわくドキドキ初めての海外ひとり旅体験記。大事なのは快適さと安心安全。マイルを貯めて飛行機はビジネスクラス。パリでは日本語ガイドを頼んだり、観光ツアーに参加したりも。おいしい食事、買い物、美術館に街歩きと、気分はすっかりパリマダム。持ち物や服装、かかった費用、旅の注意点などリアルな情報も満載。「ひとり」「年齢」の考察に励まされます。(玲)
●ミチコ・カクタニ 著 橘明美 訳●集英社(2023年10月)●19.4×13.7cm/411頁●定価3,550円(税込3,905円)
ニューヨークタイムズ紙で書評をしていた、日系アメリカ人二世の著者。一人の本好きとして、ぜひ読んでほしいと思う自身の愛読書を100冊近く紹介。有名な古典もあれば、回想録、自伝、ノンフィクション、絵本など、幅広い選書が特徴。紹介文は簡潔でわかりやすく、どれも読みたくなる。移民や差別など、現代社会の問題に通じる作品も多数ある。書店にふらりと入った気分で読みたい。(真)